イギリス人アナリストが見た日本

デービッド・アトキンソン氏は、日本在住25年を超すイギリス人の元一流証券アナリストで、現在は、国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社の代表取締役社長です。
ゴールドマン・サックスのアナリスト時代には、日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し注目を集め、小西美術工藝社では、在庫管理、研修制度、職人の正社員化、給与体系の変更など改革を断行。
オクスフォード大学時代には日本学を専攻、趣味の茶道にも造詣が深い方です。

そんなアトキンソン氏が、アナリストとしての視点で冷静に日本の強みと弱みを分析したのが次の本。


日本の高度経済成長の主要因は勤勉な国民性でも卓越した技術力でもなく(それももちろんあったが)、人口増加が主要因だったという身も蓋もない結論に始まり、「日本人は海外から取り入れた文化をアレンジするのが上手い」「日本は四季がはっきりしている」「海外でヘルシーな日本食がブーム」など、よく聞かれる日本人にとって耳障りの良い説に疑問を投げかけるなど、耳の痛い指摘がズバズバと続きます。

また、日本の労働者は確かに真面目で忍耐強く勤勉だが、数字を意識しない経営者が多いため、多くの企業で生産性の低さと効率の悪さが顕著になっていて、数字に基づいた科学的な経営が必要と指摘しています。
こうした非効率さは、高度経済成長時代に培われた、変化に対して「面倒くさい」と感じる男社会の特徴に起因していて、これからの時代には、そうした意識を転換する必要があるとのこと。
そしてそれは、一度方針転換が決まれば迅速に動くという日本人の切り替えの早さと発想の自由さを強みにすることで、十分可能と述べています。

また、これから迎える人口激減時代において、観光業に力を入れていくことを提唱しています。
著者の分析では、日本を訪れる観光客と観光業からの収入は、まだまだ世界平均よりも低く、特に欧米の富裕層の取り込みに改善の余地があると指摘しています。
ここでも、独りよがりな「おもてなし」を押し付けるのではなく、外国人に本当に楽しんでもらい、満足してもらうためには何が必要なのかを考えて、現状を分析し、具体的なシステムを整備することが重要です。

本書の中でも指摘されている通り、近年、諸外国と比較して日本を礼賛するようなテレビ番組や書籍などが目立ちますが、大事なことは、自分たちに都合の良い結論を並べることではなく、冷静に客観的に現実を把握することです。
特に、自分も含め、若い世代にその視点は重要です。

日本人はルール通りに正確に仕事をこなし、そのことが日本社会の安定に繋がっている一方で、完璧主義に陥るあまり、0か100かの極端な思考になってしまい、それが日本社会の硬直化を招き、ルールが変えられない事態を引き起こしているという指摘は、自分自身に置き換えても当てはまるところがあり、今後改善していきたいポイントです。

もちろん著者の主張を全て鵜呑みにする必要はないし、むやみに自虐的になる必要もありませんが、本書には、傾聴に値する指摘がいくつも含まれていると感じました。
著者の真意も日本人に不快な思いをさせることではなく、せっかくの潜在能力に対してその能力が十分に発揮されていないことがもったいないという点にあります。

現在の日本の強み・弱みとこれからの方向性を考えるきっかけにするのに最適な一冊です。


デービッド・アトキンソン氏 「イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る」