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TPPの発効手続きと発効条件

先日、ベトナム議会が10月国会での環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の批准を見送るというニュースを耳にしました。
ベトナムは加盟国の中で、TPPによる利益を最も享受できる国の1つという話もあるなかでどうして見送り?ということですが、アメリカ大統領選の状況が影響しているようです。

アメリカ大統領選は、11月8日の投票日に向けて、現在、民主党クリントン候補と共和党のトランプ候補の支持率が拮抗していますが、両候補とも現時点でTPP反対を表明しています。
クリントン候補については、もともとTPP賛成派でしたが、大統領選の民主党内での支持率拡大のため反対に回ったという経緯がありますので、仮に大統領になった場合に、実際に継続して反対を表明するのか、あるいは再交渉して一部修正等を試みるのか不明ですが、少なくとも現時点では、大統領就任後も反対するという姿勢を示しています。)

一方、日本では、安倍首相が、明日(9月26日)召集の臨時国会でのTPPの承認を目指すとしています。

そもそもTPPは、昨年(2015年)10月に大筋合意がなされ、今年(2016年)2月4日に全加盟国の代表が正式署名したという経緯があります。
正式署名したんだから、遠からず自動的に発効されるんだろうと思っていたのですが、どうもそうではないようです。

実際には、正式署名した協定の内容を、各国がそれぞれの議会に持ち帰って承認を得ていくというプロセスを経て初めて発効されます。
そのプロセスの条件が、しばりが結構きついものになっていて、そのあたりが今回ベトナム議会が承認を見送った理由にもつながっているようです。

そこで今回は、当たり前すぎるからなのか、なかなか報道されることはないのですが、そもそも、TPPはどのような承認手続きを経て、どのような条件が整えば発効されるのかをまとめてみます。

TPPの公式言語は英語・フランス語・スペイン語となっていて、日本語はありませんが、TPP政府対策本部のホームページに、TPP協定全文の日本語訳が掲載されています。
また、英文の正文は、ニュージーランド外務貿易省のホームページに掲載されています。

TPPの全文は数千ページの膨大な量にのぼるようですが、TPPの批准手続きの詳細が記載されているのは、そのうち「第30章(最終規定)の五条 効力発生」の部分で、それほど長い文章ではありません。
TPP Chapter 30. Final-Provisions(英語正文)
TPP第30章(最終規定)(訳文)

以下、該当部分を抜き出してみます。

1. This Agreement shall enter into force 60 days after the date on which all original signatories have notified the Depositary in writing of the completion of their applicable legal procedures.
1 この協定は、全ての原署名国がそれぞれの関係する国内法上の手続を完了した旨を書面により寄託者に通報した日の後六十日で効力を生ずる。

 

2. In the event that not all original signatories have notified the Depositary in writing of the completion of their applicable legal procedures within a period of two years of the date of signature of this Agreement, it shall enter into force 60 days after the expiry of this period if at least six of the original signatories, which together account for at least 85 per cent of the combined gross domestic product of the original signatories in 20131 have notified the Depositary in writing of the completion of their applicable legal procedures within this period.
2 この協定は、この協定の署名の日から二年の期間内に全ての原署名国がそれぞれの関係する国内法上の手続を完了した旨を書面により寄託者に通報しなかった場合において、少なくとも六の原署名国であって、これらの二千十三年における国内総生産(注)の合計が原署名国の二千十三年における国内総生産の合計八十五パーセント以上を占めるものが当該期間内にそれぞれの関係する国内法上の手続を完了した旨を書面により寄託者に通報したときは、当該機関の満了の後六十日で効力を生ずる。

注 この条の規定の適用上、国内総生産は、その時点における価格(アメリカ合衆国ドル)を使用した国際通貨基金のデータに基づくものとする。
1  For the purposes of this Article, gross domestic products shall be based on data of the International Monetary Fund using current prices (U.S. dollars).

 

3. In the event that this Agreement does not enter into force under paragraph 1 or 2, it shall enter into force 60 days after the date on which at least six of the original signatories, which together account for at least 85 per cent of the combined gross domestic product of the original signatories in 2013, have notified the Depositary in writing of the completion of their applicable legal procedures.
3 この協定は、1又は2の規定に従って効力を生じない場合には、少なくとも六の原署名国であって、これらの二千十三年における国内総生産の合計が原署名国の二千十三年における国内総生産の合計の八十五パーセント以上を占めるものがそれぞれの関係する国内法上の手続を完了した旨を書面により寄託者に通報した日の後六十日で効力を生ずる。


小難しい表現が並んでいますが、このTPP協定が批准されるためのシナリオは、大きく次の2つのケースがあります。

1つ目は、2年以内(2018年2月4日まで)に参加12ヵ国すべてが各国の国会で承認を得た場合。
ただし、今年2月の正式署名から半年以上経過した2016年9月25日現在、自国の国会で承認を得た加盟国はまだないようです。

そして2つ目。これが重要なのですが、2年以内に12ヵ国が一致して手続きが終えられていない場合は、
・12ヵ国中少なくとも6ヵ国が賛同すること。
・その6ヵ国の2013年のGDPが、全12ヵ国のGDPの85%以上を占めること。
の2つの条件をクリアすると発効されます。

そこで、まずは参加国をおさらいしてみます。
アメリカや日本の動向ばかりが注目されていますが、TPPは次の12ヵ国で構成されています。

f:id:ryo-report:20160925192534j:plain

(参照:TPP(環太平洋パートナーシップ)協定交渉への参加 | 首相官邸ホームページ

そして、肝心な2013年の12ヵ国のGDP比率ですが、次の通りとなっています。

f:id:ryo-report:20160925191737p:plain


「少なくとも6ヵ国のGDPが全12ヵ国のGDPの85%以上を占める」という条件を考えてみると、1位のアメリカと2位の日本だけで78.1%と圧倒的な割合を占めています。
したがって、少なくともアメリカと日本の両国が賛同しないと成立しないのです。
しかも、GDPの金額は2013年のデータと定められているため、今後変動することはありません。
そうなると、ベトナム議会が今国会での批准を見送ったというのもわかる気がします。

日本では安倍首相が明日からの臨時国会で、早期批准を目指し、他参加国にも批准を促したいようです。
アメリカでは、現職のオバマ大統領が、何とか来年1月までの任期中の批准を目指していますが、なかなか道は険しそうです。
TPPの内容や賛否だけでなく、発効手続きの進捗状況についても注目です。