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Gelardo(後編)

(前編はこちら)


ひょんなことからキューバ人のおっちゃんGelardoに彼の自宅で散髪してもらうことになった僕は、Gelardoと共にタクシーで彼の家に向かうことになりました。
 
タクシーと言ってもキューバのタクシーは普通のタクシーではありません。
乗り合いタクシーです。
すなわち、タクシーなのに通る道、方向、行き先がある程度決まっていて、みんな乗車前に、「この辺りに行きたいんだけど行く?」と聞いてから乗ります。
降りるときも必ずしも自分の目的地の目の前で停まるわけではないので、だいたいの場所で降りてそこから歩きます。
料金も定額で50円とか100円とかすごく安く、こうなるともう路線バスとほとんど一緒です。

タクシーとして使われている車は50年以上前の車が多く、ガタガタいいながら走るので、乗り心地がいいとは言えませんが、趣はあります。
車体も大きく、標準的な車でも、運転手の横に2名、後ろに3名の計5名が乗れるようになっているので、乗り合いタクシーには最適です。

キューバでは地元の人用の通貨(人民ペソ(CUP))と観光客用の通貨(兌換ペソ(CUC))の2つが存在しています。
たとえば、同じようなものを食べたとしても、観光客向けのレストランでは観光客用の通貨しか使えず、値段も先進国並み。
一方、ローカルのレストランではすごく安く提供されます。
同様に、タクシーも観光客が乗るタクシーとローカルのそれは完全に違います。
観光客用のタクシーは1人乗りで料金も数百円はします。
 
キューバは1959年の革命後、50年以上アメリカから制裁を受けてきた影響で、物資が不足しています。
今も修理を重ねながら走る1950年代のアメ車、数十年前の面影をそのまま残す街並み、30分100円の料金制で限られた場所でしか使えないインターネットなど、社会主義政策を選択した、あるいはせざるをえなかった中で、他国とはあきらかに異なる道を歩んできました。

そんなキューバでは、今の時代にはある意味先進的ともいえる、シェアする文化やリサイクルする文化が発達しています。
乗り合いタクシーが普及しているのもその1つで、ヒッチハイクも多くの人にとって日常のようです。
ライターも、ガスがなくなれば補充し、壊れれば修理して使うという話がキューバについての本に書いてありましたが、人は制限されるとその中でいろいろ工夫して何ができるか考えるんだなと実感しました。
 
=====
 
さて、タクシーを降りたGelardoと僕は、そこから5分くらい歩いてGelardoの家に向かいました。
陽気なGelardoは近所の人に声をかけ声をかけられ、会話を交わしながら進んでいきます。
着いたのは、日本でいうとアパートというか公団風の建物の1室。確か3階か4階でした。
入ってすぐの部屋に古びた散髪台が置いてあり、1匹のおとなしい犬が寝そべっていました。
奥さんと子供は田舎に住んでいるようで、今は1人暮らしです。
Gelardoは2LDKくらいの部屋を一通り見せてくれて、その後散髪が始まりました。
 
Gelardoは使い古した散髪道具一式が入ったカゴの中からバリカンを取り出し、僕の髪を切り始めました。
僕の髪は短めなほうなので、普段散髪に行くときでも、最初バリカンを使われることはよくありますが、Gelardoはそのままほとんどバリカンだけで切っていきます。
結局バリカンとバリカン用のクシで全体的に短くした後、最後に気持ちハサミを使って揃えて10分もかからず切り終わりました。
シャンプーはもちろんありません。
前髪がきれいに切りそろえられたのが若干気になりましたが、もともと短髪なのでそれほど違和感なく仕上がりました。
ただ使い古しの鼻毛カッターはちょっとやめてほしかったけど。。
 
Gelardoと僕は家を後にし、昼食を食べに行きました。昨日とは別の場所でまたハンバーガーを食べました。
散髪代(通常100円か200円くらいらしい)はいらないと言っていたけどそうもいかないので、ハンバーガー代は払いました。
食べ終わると、Gelardoから水族館に行くか?と言われたので、なぜか、キューバで44歳のおっちゃんと水族館デート(?)をすることになりました。
海沿いの水族館は、入場無料でしたが、とても寂れていて、野良犬や野良猫が寝そべっています。
ウミガメの水槽はきちんと手入れされていないのか汚く、イルカショーの会場は完全に寂れていて、もうイルカは展示されていません。
そんななかでも、熱帯魚は割ときれいに展示されていて、Gelardoはテンション高く何度もBeautifulと言っていました。

そうこうするうちに夕方近くになって、市街地に戻りラテンの挨拶ハグをして別れました。
髪を切ってくれなんていう旅行者は普通いないだろうし、突然のお願いにもかかわらず、Gelardoはいろいろ親切にしてくれて、僕にとってはとてもいい思い出になりました。
ありがとう、Gelardo!