「その靴どこで買ったの?」

今から数年前、当時大学生だった僕は1人でマレーシアを旅行中で、
とあるショッピングモールをぶらついてたときのこと。
ちょっと疲れたなぁと思って看板広告を見ながらぼーっと立っていた時でした。
40代半ばくらいの、見た目は全く普通なおばちゃんが英語で話しかけてきました。
「その靴どこで買ったの?」
ちょっとびっくりしましたが、とりあえず質問されたので
「いや、日本から来てるんだ。だから日本で買ったんだよ。」
と答えました。
 
「あぁ、そーなの。韓国の人かなと思ったわ。日本人なのね。」
とおばちゃんは言って、
「旅行で来てるの?」「日本のどこに住んでるの?」
「私実はちょっと前日本食レストランで働いてたのよ」
とか親しく話しかけてきます。
 
おばちゃんは時折、「What are you doing? Just "BuraBura"?」
といったふうに、片言の日本語を混ぜて話します。
(今振り返ると彼女の日本語のレベルで「ぶらぶら」というこなれた日本語を知っている時点で結構怪しい)
経験がある人もいると思いますが、海外の日本語の通じない環境で過ごしていると、
「コンニチハ」とかでも言ってもらえると結構うれしいもので親近感がわいてきます。
 
おばちゃんが、「君英語上手だね」と言ってくれたので、
僕は、「オーストラリアに1年交換留学してたんだ」と答えました。
おばちゃんは、「どおりでね」と言い、
「実は私の姪っ子がちょうど今度の27日に関西外大に交換留学で行くのよ」
とすごく具体的な話を放り込んできました。
当時大阪に住んでいた僕は、

「Oh, really?」と言いながらこんな偶然もあるんだなと感心していました。
 
「それで実は姪っ子は日本語もまだしっかりしてなくて
いろいろ不安がってるからあなたにいろいろ教えてもらえたらなと思うんだけど。
家もすぐそこだし、ちょっと30分ぐらい話してあげてくれない?」
とおばちゃんはアドバイスを求めてきました。
 
突然の要求に僕は戸惑いました。
自分も留学前いろいろ不安だったし力になってあげたい気持ちもあるけど、
見知らぬ土地で、知らない人の家に行くのはちょっと怖い。
 
「じゃあメアドを教えてくれたら質問に答えるよ」
と言ってみましたが、
「いやいやすぐそこだしちょっと話してくれればいいから。Come, come!」
と強引に誘ってきます。
 
僕はかなり迷ったあげく、
「今急いでるから」と意味不明な言い訳をして
その場を離れることにしました。
おばちゃんも、あっそう、と言った感じですぐに立ち去りました。
いろいろ教えてほしいってさんざん言ってた割にはメアドも聞かないし
あっさりしてんなぁ、何だかなぁ、と思いながら
ちょっと疲れたので、僕は外に出て、

噴水の見えるベンチに腰掛けて休憩することにしました。
 
まもなくすると、2人ぶんくらい空けて同じベンチの左に座っていた

30過ぎくらいのおっちゃんが話しかけてきました。
「Excuse me? Where did you buy this shoes?」
僕は、「えーっ!?おいおいまた靴かよ」と思いながら
周囲の人々が履いている靴を見渡してみましたが、
みんな似たようなな靴を履いていて、

僕の靴が特別変わっているということはありません。
どこにでもあるブランド物でもない普通のスニーカーです。
 
僕は、さっきのおばちゃんと最初話したような世間話を5分くらいしました。
そして、例によって
「英語うまいね」「いや留学してたから」
という話になり、すると、おっちゃんが、
「実は今度俺のlittle sisterが日本に君と同じように交換留学で行くんだ」
と言いました。
 
僕は、背中がゾクっとしました。
明らかにおかしい!
僕は会話を途中で遮って、
「Sorry, I have to go.」
と言って逃げるようにその場を立ち去りました。
 
日本に帰った僕は、遅ればせながら
本屋で『地球の歩き方』のマレーシア編のトラブル集を読んでみました。
すると、日本からの留学生などに対して、

片言の日本語を操りながら親しげに話しかけてきて、
姪っ子や甥っ子が日本に留学するから話を聞かせて欲しいと言って家に招き、
最初はご飯を出してくれたり、すごく親切にしてくれるが、
しばらくすると、
「ちょっとゲームで賭けて隣の家のやつを負かしてやろう、絶対勝てるから」
と言って無理やりギャンブルに参加させ、
それも最初は気分良く勝たせてくれるが、
最後の最後に大負けをくらわされて、

全財産を持っていかれるという犯罪が後を絶たない、
と書いてあったのです。
 
僕はやっぱりやばい話だったか、と思いながら「あっぶねー」と肝を冷やしました。
よくよく振り返ってみると、
直接「Where are you from?」と聞くのではなく靴に注意を向けて、

いい靴だねというニュアンスを込めてくすぐってみたり、
かなり具体的に姪っ子の留学の話をしてきたり、やり口がかなり巧妙です。
また、マレーシアの人と日本人では服装や化粧、表情などがかなり違うので、
一見して外人だということが区別できます。
そういういろんなことを考えると「なるほどね~」と点と線がつながりました。
 
マレーシアだけではなく他の国でも同様なことはあるし、
数年前の話なのでまたやり口はいろいろ変わってきてるかもしれませんが、
やっぱり、外国に行く時はいつも以上に警戒して気をつけないといけないなと
身が引き締まる思いをした経験でした。